働き方・待遇2026-07-28監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

保育士の残業・持ち帰り仕事の実態 — 転職先で見極める3つの視点

この記事の要点

「持ち帰った分の時間は、誰にも見えないから、給料には反映されないんですよね」

僕が保育士の転職相談を受けている中で、この言葉を聞くのは一度や二度ではありません。処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲが積み重なって、月給や時給の数字そのものは以前より上がっている園が増えています。ただ、その数字の裏で「残業・持ち帰り仕事の時間」がどう扱われているかまでは、求人票にはほとんど出てきません。結論から言うと、処遇改善で給与が上がったことと、残業や持ち帰りが減ったことは、別の指標として確認する必要があると僕は考えています。今日は、その実態と、転職先を選ぶときに見極める視点、内定後にできる具体的な確認手順までお伝えします。

1. 保育士の残業・持ち帰り仕事の実態 — 手当のつかない時間の中身

持ち帰り仕事の中身として相談で多く挙がるのは、日案・週案の作成、連絡帳の記入、行事の準備物や壁面装飾、指導計画の見直し、保護者向けの配布物づくりです。これらは開所時間内の保育業務が優先されるため後回しにされやすく、結果として持ち帰りになりやすいという構造があります。公的な統計として「持ち帰り時間の平均」を示す出典は見当たらないため、あくまで僕の体感値としてお伝えしますが、相談者の声を集めると週3〜5時間程度という方が多い印象です。厚生労働省の毎月勤労統計調査では一般労働者の所定外労働時間は月10時間台という数字が出ていますが、これは勤怠に記録された時間で、保育士の持ち帰り分はここに含まれていません。同じ「残業」という言葉でも、記録される時間と実際に働いている時間にはズレがあるのが保育士という職種の特徴だと僕は感じています。園によって差が大きく、ほぼゼロという園も、毎日1時間以上という園も、どちらも実在します。業態別に見ても、認可保育園は行事や指導計画の書類量が多く持ち帰りが発生しやすい一方、企業主導型は園規模が小さいため職員1人あたりの事務負担が重くなりやすく、学童保育は行事準備が少ない代わりに保護者対応や個別記録の作成が集中しやすいなど、負担の出方が違います。「保育士だから残業が多い」ではなく、「その園・その業態の運営体制によって差が大きい」という前提で見る必要があります。

2. なぜ残業が「見えない」のか — 勤怠と実態のズレ

勤怠システムは基本的に開所時間内の出退勤を記録するもので、持ち帰り仕事は自己申告制になっている園がほとんどです。自己申告制の場合、申告しづらい空気があると実態は記録に反映されません。園長自身も「持ち帰りが発生していること」を認識していても、業務の割り振り自体を変えられずにいるケースもあります。僕がこれまで相談を受けた中では、0歳児クラスを担任していた方が、連絡帳の記入だけで毎日30分〜1時間ほど自宅で作業していたと話してくれたことがありました。連絡帳は一人ひとり手書きで内容も個別化する必要があるため、開所時間中は難しく、結局持ち帰りになる、という構造でした。別のケースでは、企業主導型保育事業の小規模園に転職した方が、事務職員がいない体制のため、保護者への連絡文書作成や請求関連の事務まで保育士が兼務しており、月末になると持ち帰りが増える、という声を聞いたこともあります。どちらも「悪意のある園」ではなく、人員配置や業務分担の構造そのものが持ち帰りを生んでいる点が共通しています。この構造を理解しておくと、面接で聞くべき質問の的が絞りやすくなります。

3. 転職先で残業量を見極める3つの軸

求人票・面談・園見学のそれぞれで確認できることは違います。以下に整理します。

確認の場見るべきポイント分かること
求人票「持ち帰り仕事なし」「ノー残業デー」等の明記の有無、有給消化率の記載園として制度化しているかどうかの入口情報
面談日案・週案の作成時間の確保状況、残業の申告方法、有給の取りやすさ制度が実際に運用されているかの温度感
園見学職員が終業後もどのくらい残っているか、休憩室での会話の雰囲気現場の実態に近い一次情報

求人票の記載だけで判断せず、面談で具体的に聞き、園見学で目視することの3段階を通すと、入職後のギャップを減らせると僕は考えています。特に園見学は、就業時間の終わり際、できれば延長保育の終了時刻に近い時間帯に訪れると、職員がどのくらい残っているかが自然と見えてきます。所要時間としては30分程度で構いませんが、可能であれば時間帯を変えて2回訪れることをおすすめしています。1回目は日中の保育の様子、2回目は終業前後の様子を見ると、書類上の制度と現場の運用の両方が見えてきます。

4. 面接で聞いてもいい質問と、答え方から分かるサイン

面接で残業や持ち帰りについて聞くこと自体は、決して失礼な質問ではありません。むしろ、働き方への関心が高い候補者だと受け取られることも多いです。おすすめしている質問は「日案・週案の作成時間は勤務時間内に確保されていますか」「持ち帰りの連絡帳や制作物はありますか」「有給休暇は年間どのくらい消化されていますか」の3つです。この質問に対して、担当者が「だいたい取れています」「そんなにないと思います」といった曖昧な返答しかできない場合は、実態を把握していない、あるいは把握したくない事情がある可能性があります。逆に「新人のうちは週案作成に時間がかかるので、最初の3か月は先輩がサポートに入ります」「壁面装飾は月1回の職員会議の時間内に交代で作っています」のように具体的な運用まで答えられる園は、業務設計そのものが整理されている傾向があると僕は感じています。答えの具体性の差は、実は面接の場でしか確認できない一次情報です。求人票には出てこない部分なので、この3つの質問はぜひ準備してから面接に臨んでいただきたいと思います。

5. 処遇改善加算と残業の関係 — 手当が増えても時間は減らないことがある

処遇改善加算Ⅱは、キャリアアップ研修の受講状況に応じて手当が加算される仕組みです。ここで見落とされがちなのが、研修の受講そのものが業務時間を圧迫する場合があるという点です。研修は分野によって数十時間規模になることもあり、受講後にはレポート作成や園内での共有資料づくりが発生することもあります。手当は増えても事務負担は増えるという構造が生まれることがある、という点は僕が相談を受ける中でも実感しています。処遇改善加算Ⅲについても、賃金改善の対象範囲や配分方法は園ごとの裁量が大きく、加算が入っていることと、その分を業務効率化や人員増に使っているかは別問題です。給与の数字が上がったという情報だけで判断せず、「その加算の運用によって業務がどう変わったか」まで確認することが、処遇改善後の転職では特に重要になっていると僕は考えています。面談で「処遇改善加算はどのように配分されていますか」と聞くだけでなく、「研修受講後の事務作業はどのくらい発生しますか」まで聞けると、手当と負担のバランスが見えてきます。

6. よくある失敗と対処 — 内定後に気づいた「持ち帰り前提」の園

相談の中で実際にあったケースをひとつ紹介します。ある保育士の方は、面談で「残業はほとんどありません」という説明を受けて入職を決めましたが、実際には壁面装飾や誕生日会の準備が「勤務時間外にやるもの」という前提で運用されている園でした。求人票にも面談メモにも「持ち帰りなし」と記載があったにもかかわらず、実態としては装飾物や制作物は暗黙のうちに自宅対応が想定されていたのです。この方は入職後3か月ほどで違和感に気づき、園長に直接「装飾物の準備時間を勤務時間内に確保してほしい」と相談しましたが、体制自体を変えるのは簡単ではなく、結局は次の転職で解決する形になりました。この失敗から得られる教訓は、「持ち帰りなし」という言葉だけでなく、「装飾物・制作物・行事準備は誰が、いつ、どこで作っているのか」まで具体的に聞くことです。内定後にできる実務チェックとして、僕は次の手順をおすすめしています。

  1. 労働条件通知書を受け取った当日中に、残業・持ち帰りに関する記載の有無を確認する(所要時間5分)。
  2. 記載がなければ、入職前の電話や面談で「装飾物・制作物・行事準備の担当と作業時間」を具体的に質問する(所要時間10分)。
  3. 可能であれば入職初週に、実際の週案作成の時間配分を先輩職員に聞いておく(所要時間15分)。

この3ステップは合わせて30分ほどで完了しますが、聞かずに入職してから気づくコストの方がはるかに大きいと僕は感じています。曖昧なまま入職を決めてしまうと、違和感に気づいてからの調整には数か月単位の時間がかかることもあるため、入職前の30分は決して長い時間ではありません。

0.(結論)保育士の残業・持ち帰り仕事は、給与とは別軸で確認する

処遇改善加算によって保育士の給与相場は着実に上がってきましたが、それと残業・持ち帰り仕事の量が減ったかどうかは、別の軸で確認する必要があります。求人票の記載、面談での具体的な質問、園見学での一次情報、そして内定後の実務チェックという段階を通して見極めることで、入職後の「思っていたのと違った」を減らせます。皆さんいかがでしたでしょうか。給与だけでなく、時間の使い方まで含めて自分に合う園を選んでいけるよう、では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 保育士の残業時間はどのくらいが目安ですか?

公的な統計で「持ち帰り仕事」の平均値が明確に示されているわけではありませんが、僕が転職相談で聞く体感値では週3〜5時間という声が多く、園による差が大きいのが実情です。勤怠に記録される所定外労働時間と、自己申告制の持ち帰り分は別に数えられていることが多いため、求人票だけでは分からず、面談や園見学で具体的に確認することをおすすめしています。

Q. 残業や持ち帰りが少ない園を面接で見分ける方法はありますか?

「日案・週案の作成時間は勤務時間内に確保されていますか」「持ち帰りの連絡帳や制作物はありますか」を具体的に聞くと、担当者の答え方の具体性からある程度の実態が見えてきます。装飾物や誕生日会の準備を誰がいつ作っているかまで聞くと、暗黙の持ち帰り前提が隠れていないかも確認できます。曖昧にしか答えられない場合は、僕は少し注意して見た方がいいと考えています。

Q. 処遇改善加算で給与が上がれば残業も減りますか?

必ずしもそうとは言えません。処遇改善加算Ⅱはキャリアアップ研修の受講が条件になっているため、手当が増えても研修受講や書類作成の負担がむしろ増える園もあります。処遇改善加算Ⅲも配分方法は園の裁量が大きく、給与と労働時間は別の軸で確認する必要があると僕は考えています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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