公立と私立、認可と認可外 — 待遇比較と選び方の軸
- 公立・私立・認可・認可外という看板の違いより、配置基準・研修制度・ICT化・加算の使い方という4軸が実際の働き心地を決める。
- 公立は給与テーブルの安定が強みだが採用試験の時期が限られ、私立は園ごとの差が大きい分マッチングの精度が問われる。
- 園見学では処遇改善加算の配分方法を質問し、明確な説明が返るかどうかで園の透明性を確かめられる。
「公立のほうがいいんですよね?」
園選びの相談で、この質問はほぼ必ず出てきます。皆さま、公立か私立か、認可か認可外か——この「看板」で園の良し悪しを判断していませんか。結論から言うと、看板は働き心地を保証しません。同じ「私立認可」の看板でも、天国のような園と、消耗する園の両方が実在します。
今回は、看板の解説を一通りした上で、実際の働き心地を決める4つの軸を提案します。僕が面談で園選びの相談を受けるとき、実際に使っている軸です。
0. 前提 — 看板の違いを1分で整理する
まず用語の整理です。認可保育園は、国の基準(面積・職員数など)を満たし、自治体の認可を受けた施設。運営が自治体なら公立、社会福祉法人や株式会社なら私立です。認可外は自治体の認可を受けていない施設の総称で、企業主導型保育やベビーホテル、院内保育所など、性格の異なる施設が幅広く含まれます。ここで大事なのは、認可外=質が低い、ではないこと。企業主導型のように国の助成を受け、認可に準じた基準で運営される施設も含まれています。
1. 公立という選択 — 安定と引き換えにあるもの
公立保育園の正規職員は地方公務員です。給与テーブルが自治体の俸給表に基づくため、昇給の見通しが立てやすく、雇用も安定しています。長く働くほど処遇が積み上がる構造は、安定志向の方には大きな魅力です。
一方で、正直な注意点もあります。①採用試験の時期・回数が限られ、年齢要件がある自治体も多い。②配属先を選べず、異動がある。③会計年度任用職員(非正規)として働く場合は、正規職員とは処遇が大きく異なる。「公立だから安心」とひとくくりにせず、正規か非正規か、どの自治体かまで具体的に見る必要があります。公立を目指すなら、まず希望する自治体の採用試験のスケジュールを調べることから始めてください。
2. 私立という選択 — 差が大きいからこそ、選び方が効く
私立認可保育園は、園の数が最も多く、選択肢の中心になる領域です。特徴は、とにかく園ごとの差が大きいこと。給与、行事の量、持ち帰り仕事の実態、人間関係の風土。同じ認可の看板でも、運営法人の方針によってまったく別の職場になります。
だからこそ、私立を選ぶときは「認可だから大丈夫」ではなく、この後の4軸での比較が効いてきます。裏を返せば、しっかり比較すれば、公立以上に自分に合う園に出会える可能性があるのが私立です。方針に共感できる園での仕事は、給与の数字以上の満足度をもたらすことが多いというのが、僕の体感値です。逆に、方針への違和感を抱えたまま働き続けることは、待遇の良さでは埋められない消耗につながります。
3. 働き心地を決める4つの軸
ここが今回の隠れた主役です。看板の代わりに、次の4軸で園を比較してください。
軸① 配置基準に対する余裕。国の最低基準ぴったりで回している園と、基準より手厚く職員を配置している園では、日々の負荷がまったく違います。見学時に「クラスの人数と担任の数」を具体的に聞いてください。軸② 研修制度。キャリアアップ研修の受講を勤務扱いにしてくれるか、費用負担はあるか。処遇改善加算Ⅱへの道は研修が前提なので、ここは処遇に直結します。軸③ ICT化の状況。連絡帳アプリ・登降園管理・指導案のデジタル化が進んでいる園は、持ち帰り仕事が構造的に少なくなります。軸④ 加算の使い方。処遇改善加算がどう配分されているかを質問し、明確な説明が返ってくるか。説明の明確さそのものが、園の透明性の指標になります。
4. 面接・見学での質問テンプレート
4軸を確かめる質問を、そのまま使える形で置いておきます。「各クラスの子どもの人数と、担任・補助の先生の人数を教えてください」「キャリアアップ研修は勤務扱いで受講できますか」「連絡帳や指導案はアプリ化されていますか。持ち帰り仕事はどのくらいありますか」「処遇改善加算は月給と賞与のどちらに、どのように反映されていますか」。この4つを聞いて、嫌な顔をする園なら、それ自体が判断材料です。誠実な園ほど、こうした質問を歓迎してくれます。質問の順番は、答えやすいもの(クラス人数)から答えにくいもの(加算の配分)へ、が自然です。
5. 迷ったら「10年働く自分」を置いてみる
最後に、判断の物差しをひとつ。候補の園それぞれに「10年働いている自分」を置いてみてください。10年後、その園で自分はどんな役割をしていそうか。想像できる園と、想像すらできない園があるはずです。給与の数百円・数千円の差より、この想像のしやすさのほうが、長期的な満足度には効いてきます。年収の相場観と合わせて、両方の目で選んでください。
6. 認可外を検討するときの追加チェック
認可外を候補に入れる場合は、4軸に加えてもう2つ確認してほしい点があります。①指導監督基準を満たしている施設か。認可外保育施設には自治体による立入調査があり、指導監督基準を満たした施設には証明書が交付されます。求人票や見学時に、この証明書の有無を確認してください。②処遇改善の原資がどうなっているか。認可園に適用される処遇改善加算の体系と、企業主導型等に適用される助成の体系は同じではありません。「保育士の処遇改善」という言葉が同じでも、制度の中身が違うため、給与体系は個別に確認する必要があります。
6-1. 見学での実例。企業主導型の見学で「運営企業の担当者が保育の現場をどのくらい見に来ているか」を聞いた方がいました。この質問への答えで、運営が保育を本業として大切にしているかがよく見える、と僕も感じた事例です。6-2. よくある失敗。「小規模で楽そう」というイメージだけで認可外を選んでしまうケースです。少人数保育は一人あたりの責任範囲がむしろ広いこともあります。楽かどうかではなく、合うかどうかで判断してください。
7. 実務パート — 比較表を自分で作る(所要30分)
読んだら、ぜひ手を動かしてみてください。白紙かスマホのメモに、候補の園を縦に、4つの軸+通勤時間+給与内訳を横に並べた表を作る。それだけです。求人票と見学で埋まらないマスは、面接で聞く質問リストになります。埋まらないマスこそが、あなたがまだ知らないリスクの在り処です。30分で作れるこの表が、入職後の数年を守ってくれます。
(結論)看板でなく、軸で選ぶ
まとめます。①公立・私立・認可・認可外という看板は働き心地を保証しない。②公立は安定が強みだが、正規・非正規と自治体の違いまで見る。③私立は差が大きいからこそ比較が効く。④比較の軸は「配置の余裕・研修制度・ICT化・加算の使い方」の4つ。⑤最後は「10年働く自分」が想像できるかで決める。
園選びは、人生の長い時間を過ごす場所選びです。看板に頼らず、自分の軸を持って選んでください。ひとつ言い切っておくと、4つの質問を面接で聞ける人は、聞けない人より良い園に入る確率が確実に上がります。質問は失礼ではなく、長く働く意思の表明です。遠慮という名の情報不足で、入職後に後悔するのがいちばんもったいない。
皆さんいかがでしたでしょうか。まずは15問の診断で、自分がどんな園に向いているかを確かめてみてください。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 公立保育園と私立保育園、保育士にとってどちらが良いですか
一概には言えません。公立(自治体正規職員)は給与テーブルと雇用の安定性に強みがありますが、採用試験の時期・回数が限られ、異動もあります。私立は園ごとの差が大きい分、方針に共感できる園に出会えれば長く働きやすい環境になります。看板でなく、配置基準・研修制度・ICT化・加算の使い方という実務の軸で個別に比較することをおすすめします。
Q. 認可外保育施設で働くのは不利ですか
不利と決めつける必要はありません。認可外には企業主導型のように国の助成を受けた施設も含まれ、少人数保育や柔軟な働き方など認可にない特徴を持つ職場もあります。ただし処遇改善加算の適用は園によって異なるため、給与体系と運営状況の確認は認可以上に丁寧に行ってください。
Q. 園見学ではどこを見ればいいですか
子どもたちの表情、保育士同士の声のかけ方、職員の定着率、ICT化の状況(連絡帳アプリや登降園管理)を見てください。加えて「処遇改善加算はどのように配分されていますか」と質問し、明確な説明が返ってくるかどうかも、園の透明性を測る材料になります。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。
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